Innovators Hundred Hiroshima イノベーターズ100広島

Interview
先人たちへのインタビュー

イノベーターズ100対談 「エフピコ × ツネイシホールディングス」

備後の中心であり、46万の人口を誇る広島県福山市。その福山市を拠点に成長を続ける二つの企業がある。今回の対談ではツネイシホールディングス代表取締役専務・末松(神原)弥奈子氏と株式会社エフピコ代表取締役社長佐藤守正氏のお二人に、時代の変化や新たなる挑戦、会社とその文化、人材の育成への思いについて語っていただいた。(以下敬称略)

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「それぞれのイノベーション」

 

ーーまずはお二人の会社について教えて下さい。

 

佐藤: 株式会社エフピコの佐藤と申します。私どもの会社はスーパー、コンビニの食品売り場で使われるトレーやお弁当容器、サラダ容器など、プラスチックのいわゆる「ワンウェイ容器」を製造販売しています。この業界に入って19年目になりますが、生鮮食品の市場そのものが、対面販売からスーパーマーケットという業態に移り、その中で集中処理をしてセルフサービスになっていった過程で、トレーというものが開発されました。

それまで真っ白だったトレーに色柄を付けた「カラートレー」を開発したのが弊社です。これが成長のドライバーになり、その後コンビニがお弁当を店頭で売るようになると、そのお弁当をその場で温めて差し上げたいニーズが生まれ、耐熱や耐油といった開発が必要とされてきました。そうして色々な素材が開発されて履きましたが、実はまだ、完璧な素材はありません。耐油性、耐熱性、断熱性、この10年だけでも、エフピコにしか無い素材をたくさん開発しています。

最近もっとも伸びてきているのが「中食」(※注:総菜やコンビニ弁当などの調理済み食品を自宅で食べること)市場の成長です。電子レンジで温める以外にも調理を補助する。ニーズが先だと思われがちですが、ニーズが先か、うちの技術が先か、容器ができて新しくマーケットができるようなこともあります。少なからず中食のマーケットそのものに貢献している実感はあります。

弊社は多角経営をするつもりはないので、会社内から新しい事業を興していくというより、今の事業の中で革新的なアイデアがあるといった事業の延長上のものこそが、弊社のイノベーションであると認識しています。

 

末松: ツネイシホールディングスの末松です。私は常石グループのCSV本部で、人材戦略、情報戦略、マーケティングとPR、新規事業を担当しています。弊社は特に多角化を進めているところなので、新しい事業の種がどこにあるか、あるいは我々の企業をどのように理解していただけるかといったコミュニケーションについても対策をしているところです。今回はイノベーターズ100ということで人材戦略の視点から参加させていただきました。

 

 

「ハード、ソフト…しかし最後は人材」

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ーーエフピコさんでは、「攻めのIT経営銘柄」に選定されるなど、IT化も大変進んでいると伺っています。

 

佐藤: いつも社内で言っているのですが、物理的なハード、建物、これらは無いと意味がない。コントロールするソフトが無かったらまた意味が無くて、ソフトとハードがあってもそれを使いこなす人材が無いとさらに意味がない。最後は全部人材なんです。それをいかにバランスよくするかが経営だと考えています。

 

ーー末松さんはいかがですか。

 

末松: もともと海運からスタートして、外航船という海外に行く船を展開しています。20年前入社した人たちは地元の会社だから地元で勤務できる入社したのに、造船所が20年前のフィリピン、10年前に中国へと赴き、いきなり海外戦略が展開されるようになった。当時はみなさんパスポートも持っていなかったなんて話も聞きますから、英語ができなくてもとりあえず海外勤務、とみんな体当たりでやってきたのが弊社です。

ですから20年前会社に入ってきた方々のチャレンジ精神やイノベーティブなマインドがDNAであるとして感じてます。一方で今入ってくる方はと考えると、入社当初から海外に行ける人たちが入ってきてる。

この20年の変化を支え会社とともに成長してくださったのは、いま60代の方々です。彼らの変化に対する熱量のすごさは、新しい人たちにはなかなかわかりづらいようです。一方ゼロからイチを実行した方々から見たら、今の人はエネルギーが足りない、と感じてしまうかもしれない。いま、弊社はその両者をマージしてる最中で、グループの中には大変いい刺激があると思っています。

とはいえ本社は広島県の福山市の沼隈町。グローバル企業とはいえ知名度が低いのが現状です。みなさんにもっと知っていただかなくてはと、人材戦略とPR、広報戦略を並行して行っています。

 

佐藤: 中小企業から拡大し今にいたる弊社のような会社というのは、社内での人の流動性がありませんでした。拡大の一途にあって多くの社員は入社当時より同じ部署にいて、部門間で人が動くことも難しい。結果、生産は詳しいけれど営業は全く知らない、総務はずっと総務にいて営業は全く知らない、というようなことが起こりがちです。しかしこれではいけない。ジェネラリストをいかに作るのか。まずは情報共有をするというところから始めて、やっと最近、グループ会社に出向してもらってから戻す、というような部門間で社員を動かすことができるようになってきました。

 

ーー人材育成については何を意識されていらっしゃいますか?

 

佐藤: 容器を売るだけではなく、お客様と一緒にプロジェクトチームを作るであるとか、商品開発の際には意識的にそうした取り組みを行っています。その中で揉まれることで、社員たちはずいぶんと成長しています。

 

末松: 地域性があるのかもしれないで���が、グループの中で完結した人材が多いなとは弊社も思っていたんです。今年は、情報をとにかくオープンにして外の情報も受け入れるつもりですが、やはり外からの刺激も必要だと思ってます。私自身20年ほどベンチャーをやっていたので大きい組織の縦割り感と視野の狭さには当初驚かされることがありました。他部門あるいはグループの他会社間の人材の流動化にはもっと力を入れたいですし、グループ内での教育研修は充実してるんですが、企業の枠を超えた他流試合のようなものが最近まで全くありませんでした。弊社としても外に出るチャンスをもっと作っていきたいと思っています。

 

 

「瀬戸内の豊かさ、気付いていないのはむしろ地元の人」

 

ーーお2人の会社を語るに当たって、福山の文化や地域が与えた影響についてはどうお考えですか?

 

末松: 地元愛がすごく強い場所だと思います。一度外に出て就職したけれどやはり地元が好きで戻ってきた人、新卒ではない中途採用のUターンなど、Iターン・Uターンの方が多いのは弊社の特徴です。

 

佐藤: 私自身は北関東出身なのですが、瀬戸内海の豊かさは、本当に素晴らしい。東京から距離はありますが、とても暮らしやすい場所だと思います。この暮らしやすさは関東人から見たらありえない。海の素晴らしさも、瀬戸内海の観光資源のすごさも、気付いていないのはむしろ地元の人です。

 

末松: その通りですね。住んでいる人たちにとって当たり前というのはすごいですよね。うらやましいと言われますよ。自然もある、食文化もある。あとはそれをどうやって伝えていくのか、が課題ですね。そういう意味では、常石だけをPRしてもしょうがないと思ってるんです。地域ブランドや瀬戸内の豊かさといった魅力を伝えていくことによって地域全体の価値が上がれば、そこに面白い企業があると知ってもらえる。Iターンで「思い切って行ってみようか」とか、田舎を持っていない人たちの移住に対する関心もありますから、地域全体で認知度をあげることで、結果人材が集まりやすくなるのではないかと考えています。

 

佐藤: 一方で、うちみたいな会社は全国で商売をやっていて、全国に支店とか営業所が分散しているんですね。そういった意味では地域性が多岐にわたり、会社全体として、福山の地域性をうたうのは非常に難しいという悩みは常にあります。社員教育にしても、研修室を作ってはいますが、弊社にはそもそも20人、30人という小さな塊が全国に点在していて、そこにより多くの人材を集約することからして難しい。

 

末松: その分やはりITを利用されているんですか?

 

佐藤: ITはかなり使います。中でもテレビ会議はよく使ってますね。でもやはり、たとえITがあっても、顔を合わせないとダメなんですよ。テレビ会議がどんなに進んでも、フェイストゥフェイスはいりますよね。

 

末松: 私も一応IT系出身なんですが、エフピコさんに負けてるかなというのがすごくあって、悔しいです。ご自身で情報収集されるんですか?情報システムに積極的に投資されてる企業って少ないじゃないですか。

 

佐藤: 新しいものが好きなので、人からいいと聞いたらやっているだけですよ。あとは、社員に繰り返し繰り返しやらせるしかない。

 

末松: 情報システムを導入すると入れたら終わりみたいになることがありますが、そうではないですものね。

 

 

「成功も失敗も共有する」

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ーー変わることに対する恐怖心は、社員のみなさんおありだと思いますが、経営者の方はそこにどうやって対峙されるのでしょう。

 

佐藤: いや、恐ろしいですよ。全体最適っていうのは実は部分不最適の塊なんですよ。だから、その部署部署から言わせると不合理の塊みたいなことなんでね。うまく回るようになって3年4年たってから、「今だから話せます。あの時、私は絶対に嫌だと思ってました。」と言われたりね。

ITシステムの導入がうまくいったのは奇跡的だったかもしれませんが、理由はわかりません。たまたまオーナーが全権を委任してくれたからかもしれない。私自身も昔のままの方がいいんじゃないか、と気持ちが揺れたこともありました。一つだけ言えるのは、もしも情報システムという一機関がこの仕組みを実現しようとしていたら、100%つぶされていただろうということ。そういう意味では、相当強いリーダーシップが無いとできないことは痛感しています。

 

ーー社長はどう社員の皆さんを説得されたのでしょうか。

 

佐藤: ビジョンを語るってのは常に必要で、でも、日々の業務に関してはビジョンでやっていけるほど甘くありません。まずはやってみせるしかないです。

 

末松: 「10年後も今のままの仕事のやり方が通用すると思いますか」という投げかけは大事だと思います。そうでなければ一刻も早く新しい仕組みに慣れましょう、と。今こそ大きな変化の時かもしれないんだから、腹を括ってやりましょう、やりたくない人は置いていきます、とあえて言ってしまう。

 

ーー新しいものに若い世代の人がより柔軟ということはありますか?

 

末松: いえいえ、我々の会社では年配の方の方が柔軟です。若い人たちの方がどちらかといえば失敗に対して臆病。変化を受け入れる力はキャリアに比例しますから。常石はセブでの成功の前にパプアニューギニアやウルグアイでの失敗があるんです。その失敗を、組織のナレッジにしたからこそ成功があるわけで、60前後の方々は失敗があるから今があるとわかっていらっしゃる。若い方々は成功の部分しか見てないから失敗への不安があると思うんです。そこをどうやってブレイクスルーするかですよね。

 

ーー失敗の共有は勇気がいりませんか。

 

末松:  昔は組織も小さかったし、飲みニケーションで失敗話を面白おかしく共有できたんですけど、今は海外の社員も多いですから、そういうコミュニケーションができなくなっている。その現実を踏まえてどうコミュニケーションツールを提供するかが我々も課題ですし、エフピコさんを見習いたいなというところです。

 

佐藤: しかし細かい失敗って全然耳に入ってこないですよね。例えば、弊社には社史が無いんですよ。うちのオーナーは、「昔のことはどうでもいい、未来が重要なんだ。昔の話なんて誰が読むんだ。」と。過去を見ないというのは、ある意味で、会社のカルチャーですね。

 

末松: 実は弊社ではいまちょうど、社史とかそういうものを作ろうと思っています(笑)。

 

佐藤: 是非作ってください(笑)

 

末松: 業態を拡大してるので中途採用が多いですし、もともと造船海運だったものが違う業態に展開しているので、それまでの会社の沿革に関して知識がないところで仕事をしていく。その部分で、環境として人を迎え入れる柔軟さがすごくあるんです。ですが、企業側で対応ができているかというとできていない。なぜ我々は船を作っているのに環境もやっているのか、なぜ私たちはほかの業態に出ていったかという理由を伝えるものが無いので、そこは補完していくつもりです。基本的には人を大事にする、地域で我々が信頼を得ているベースっていうのは事業を守るということだと思うので、地域の方々と一緒にこの地域で事業を続けていく、ということを伝えなくてはいけないのだと思っています。

 

佐藤: いろいろな事業を展開している理由を無理やりつなげなくてもいいのではないですか。

 

末松: 無理やりではないんです。(一見かけ離れているようにみえる事業も)実は強くつながっているから面白いんです。例えばホテルに入ってきた人たちはもちろんホテルサービスをやりたくて入ってきたと思うんです。でも、もともとこれが何だったのか、どういった背景でここでホテルを開いているのか、そのストーリーを知ることが、この地域を愛する気持ちに繋がるのではないかと。あまり過去を振り返るのも時間がもったいないという点については、佐藤さんと同意見です。ただし、未来のスピードを上げるために共有すべきDNAのようなものがあるのであれば、少し頑張ってまとめてみようかなと。

 

 

「10年後のためにできること」

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ーー先ほどもお話にありましたが、10年後に向けて、今何ができるかというポイントをどのように進めていらっしゃるのかもう少しお伺いしたいのですが。

 

佐藤: 10年というのは長すぎると思いますね。変化は日々必ず起きてはいるけれど、徐々にしか変わっていかない。突然変異みたいなことは起きないんです。ただ、3年あるいは5年たつと、驚くほど変わっているので、それにいかに対応するか、あるいは変化の半歩先を読むっていうのは、現場で起きることなんです。うちはとにかく現場主義。とにかく現場を見て回れって言うんです。いわゆるOJT(on the job training)で、弊社の場合なら、とにかくスーパーさんの売り場を見て回れと。見ているうちに変化がわかるんですよ。

例えば、現場では昨年と比べて人手不足の影響がかなり広がっています。スーパーが新しい店舗を出す時も、立地条件ではなくて、人手が集まるか集まらないかということがキーになる。結果一番悪い店を閉めて人材を移動させるという現象が起きています。そうなると、どうしてもインストア(店の中でやる仕事)を外のベンダーさんにお願いする、工場を作るという話になり、そうした現状によって容器のニーズも変わってきます。工場で生産されるのであればラインでより扱いやすい形に、運びやすい形に、あるいは中身が運んだ時に崩れない形に、といった具体的な話が見えてきます。現場の細かいニーズを拾い上げることで容器開発にも活かせるわけですね。だからうちはとにかく、現場を見ろとしか言っていません。そうすれば自ずとわかってくると。今からこう変わるから、と予測しながら物事を進めるのとは違うと僕は思っています。

 

ーートレー市場において実はエフピコさんは後続だったと伺いました。現場から一個一個積んできたということですね。

 

佐藤: 先行していたメーカーは、一時期国内市場でシェアの6割を占めていました。しかしそこからもう日本でやることはないとアメリカや中国に進出していかれました。

 

ーー自分たちがやらなければいけないことをやったということですね。そういう意味では多角化はリスクでしょうか。

 

末松: 我々は例えば造船事業の規模で言うと、上位ではありますがトップではないんです。そのなかで、どうやって生き残っていくか。造船事業にとって長期目線での10年って、そんな先のことだとは私は思っていません。特に造船みたいなものは、長期の投資、設備投資だけではなくて、人材育成にも時間がかかる業界なので、10年を見据えてじゃあ何をやるのか、というのは大切ですね。

 

 

「ダイバーシティではない。才能を活かす。」

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ーーお二人の会社では、多様な人材が活躍していると伺っています。ダイバーシティを育んでいらっしゃると思うのですが、どのように実現されたのですか。

 

佐藤: ダイバーシティという言葉は、あまり好きではないんですよね。

 

末松: 私も、ダイバーシティという言葉はすごくプレッシャーを感じます。そのために事業をやってるわけではないので。

 

佐藤: そうなんです。まさにそこなんですよ。

 

末松: うちの会社であれば、たまたま海外に進出したら外国人が増えて、コミュニケーションが変わったというのもありました。

 

佐藤: 例えばリサイクルに関しても、リサイクルそのものを目的にしているわけではありません。事業全体の中の一要素であった、リサイクルそのものが目的というのはありえない。社会福祉とか社会貢献と言われるべきものだとも思いません。事業を展開する中で、知的障がい者の方にピッタリの仕事が見つかったから、お願いしているんです。その結果、働いてくれる人もハッピーになって、ご家族もハッピーになった、それだけです。知的障がいの方は、我々が全くかなわないような集中力を持ってくださるので、今お願いしている仕事にとても適しておられるんですよ。

 

末松: 持って生まれた強みですね。

 

佐藤: そうですよ。それを社会が逆に押さえつけているんです。「社会貢献なんて言わないで欲しい、うちは事業としてやってるんだから」と説明するんですが、障がい者の仕事を生産性であるとか数字で考えるのはいかがなものか、と言われたりする。大きな壁が、福祉という言葉と、事業という言葉の間に存在している。この隔たりは、永遠のテーマです。ダイバーシティもそうですが、そういうことを意識してやらなくてはいけないのは大前提だとしても、それが目的化するのも違う。難しいですね。

 

末松: 弊社では女性の活用は非常に進んでいます。工場の場所に保育園がありますし、みんな出産・育児を経て戻ってくるというのが、当たり前です。東京からすると、素晴らしい環境だとも言えますが、会社の人間にとっては当たり前なわけです。ダイバーシティという言葉を考えた時、あまり対応していないのでは、と会社のものが口にしたことがあるのですが、工場の現場には中国・フィリピン・日本と3カ国の人間がいて、共通のビジュアルマニュアルが使われていたりする。現場で実際に適用しているのですから、まさにダイバーシティです。

 

ーー事業を実現するためにそれぞれの才能を適材適所で使っていくと、結果として多様性が生まれるというわけですね。

 

佐藤: その通りです。

 

末松: 女性の管理職を増やしたいわけではなくて、能力があるのに隠している全ての人たちに、「本気出して仕事してよ、ここは本気出せる場所なんだよ」と伝えたいですね。どんなに大きな組織でも、あらゆる人の本気度や才能・能力を、フェイストゥフェイスで見つけてあげないとダメなんですよ。

 

佐藤: 知的障がい者もまさにそうだと思います。持っている能力を引き出してくれるような環境で働いていただきたい。

 

末松: 常石グループは、今の人材のままで3倍伸びると思っています。社員が「箱」に合わせた能力の出し方しか今はしてないので、「箱」をもっと大きくしたり、ステージを変えてあげたり、些細なことですが、席を移すだけで景色が変わって気づきがあったりする。会社として才能を伸ばす環境を整える気概があるということを伝え、それに応えたいと思う人材がいるかどうかですね。まずボールをこちらから投げなくてはいけないと、非常に感じています。

 

「イノベーターの特徴」

 

ーーさきほど「臆病」という言葉が出てきましたが、実は第1回の県知事とアスカネットの福田社長の対談でも出てきていました。

 

佐藤: 弊社の会長なんてほんと、ペシミズムの塊ですよ。ものすごい夢を語っているけれど、内面的にはとても臆病な面も持っていると思います。

 

末松: うちの代表も、メッセージを伝えるときにはチャレンジングなメッセージをしていくんですが、基本的にはすごく悲観的で、それを克服するように、丁寧に現場を見ながらやっています。拠点も増えて日本人以外の従業員も増えている中でどう伝えていけるかとうのは最近考えますね。

 

佐藤: 情報共有ですね。

 

末松: 強力なリーダーシップが引っ張るかつてのやり方ではなく、情報共有をして社員がみんなで考えて意思決定しその目標に向かう、という方法に変えていかなくてはいけないんです。社員一人ひとりが自分自身で考えて行動することができるように変えなくてはいけません。

 

佐藤: 互いに情報を出し合い共有して、少しでも考えるように。考える癖をつけるのが大切なのかもしれない。

 

末松: インプットが足りないんですよ。例えば立場として、専門的な知識も人脈も、膨大な量の情報が入っているわけで、その中の少しでもシェアをしていただいて、共に考えるという時間も持ってもらいたいと思っています。インハウスの研修だけでなく、他の会社の同じ位の年齢の人たちが、どのようなことをしているか他流試合も知ってもらうことで、自立的に考える人材になってもらいたい。その意味でもイノベーターズ100のような場は、今一番大事だと思っています。

 

「人材を育てるために」

 

ーー自立的に考える人材というのが一つの要素だとして、他にも何か社員のみなさんに伝えられていますか?あるいはこういう人材こそ欲しいとか。

 

佐藤: 弊社はいろんな部署を経験している人間が少ないので、とにかくできる限り、情報共有に努めています。いろんなことに興味をもってほしいですよね。基礎化学研究室というのがあるんですが、そこが今行っている研究の内容を営業の幹部に必ず聞かせることにしているんです。でもその中に温度差があって、すごく興味を持って聞いてる人間と、僕にはあまり関係ないなと考える人間と、両方いたりはしますね。

 

末松: 自分が変化を嫌って同じ所に止まっていると、実は次の人のチャレンジも無くしてるんです。チーム全体あるいは組織全体を見ることができる視野の広さが本当に必要で、まずは自分が飛び込んでいる背中を見せてあげなきゃいけないし、それを見せないと人は動かないと実感しています。

 

佐藤: 上が仕事を離さない。本来ならば下を育ててそれに仕事をしてもらわなくては自分が上に行けないんだけれど、下に渡すことが怖いのか、すごく下手だというのは感じます。

 

ーーどうすれば手放せるようになるでしょう?

 

佐藤: とにかく、自分でやらないようにするしかないですよね。それができるようになって、変わった人間もいますよ。グループ会社に出向させると、左遷させられたみたいに感じてしまう傾向がありました。でも逆に言うと、優秀なほど小さいエンティティにいった方が伸びるんですよ。経営しなくちゃいけなくなるから。

 

末松:  私はベンチャー出身ですが、ベンチャーって人事から情報から営業まで全部やってるわけです。大きい会社で、ここしか知らないから異業種でどんな変化が起こっているのかも知らないというところがあるなら、小さい組織にいって視野を広げることは絶対に役に立つと確信を持っています。

 

佐藤: そういう風に伝えると、逆に、グループ会社に出る人間は、期待されてるんだなって思うような感じになってきますね。

経営者を育てるという点で言えば、やっぱりそういう経験がいると思いますね。でももう馬鹿がつくぐらい専門的でね、管理職に上げたからってそれはできないという人材だっている。それはそれで認めています。人間、得手不得手があるし、全員が経営者なんてできませんよね。

 

末松:  やっぱり、そういう専門的なところを支えてくれる人材がいるから、新しいことにチャレンジできるであろう人にチャレンジを与えられるんですよね。組織の中で役割分担があって、お互いにお互いの仕事をちゃんとリスペクトして信頼関係がある、そういう企業文化は弊社にはあると自負しています。

 

「若い人たちへ」

 

ーー最後に、この先仕事をしていく上で充実した人生になるための、アドバイスをいただけたらと思います。

 

佐藤: ハーバードビジネススクールでは、ケーススタディなどで、本当の経営者が来て話をするんです。これが非常に面白くためになったのですが、日本では実際の事業の経営者に話をしてもらう講座が少なすぎますね。

 

ーーイノベーターズ100では、経営者ご本人の言葉を伺うことで、若い参加者にエンジンがかかる瞬間があって、そこからチャレンジへと進んでいったように考えています。

 

佐藤: 会社の中に、今やっていることに疑問を持ってる人間、あるいはもっと良くしようと思ってる社員はたくさんいるんです。そのやる気をいかに引き出すかが経営者だと思いますね。

 

 

 

対談を終えて 〜イノベーターズ100・ディレクター・市川文子より〜

 

エフピコと常石。トレー容器と造船という、二つの全く異なる産業を牽引する企業が他でもない同じ広島県福山市という地域から生まれ、今日に至ることは大変興味深い現象です。 しかし佐藤社長そして末松専務、お二人の言葉からは通底するメッセージが垣間見えたように感じています。

何よりも印象的なのが「人が全て」という言葉。海外拠点の設立や、ITの導入といった大きな変化も、推進する人の意識なくしては成り立たないという認識です。そしていずれの会社も数ヶ月といった短期ではなく、世代を超えた経験や知識の共有の中で人が育っていくことを前提としています。敢えて違いをあげるなら、それぞれの事業の性質の違いから佐藤社長は3〜5年、一方末松専務は10年といったタイムスパンで物を見ているという点でしょうか。

そしてさらに特徴的なのがこの二つの会社が考える「人材」のイメージです。 エフピコさんは、いまや日本で最も障がい者の雇用率が高い会社。しかしそれは、業界では使い捨てであったトレーを製造会社である自社が回収しそしてリサイクルする、その生態系(エコシステム)の成立に欠かせない、いわば必然的な人材登用でした。 また常石は近年訪れる人が途切れるいことのない観光地となった、備後地方における瀬戸内の魅力を最大限に活かし、この地域を世界の観光マップに載せています。リゾートホテルとして成功しているベラビスタや、サイクリストを引き受けてやまない尾道U2。こうした宿泊サービスを成立させるためには、世代や性別を超えた人材や、グローバルな人材の登用が欠かせません。 ビジネスの中ではこうした動きが「必然」であると捉えるお二人にとっては、多様性を育むといった「ダイバーシティ」というキーワードも不自然に感じられる、というのも納得できます。

一方、末松専務が「社史を」と口にされる背景には、現在の事業を切り開いてきた会社の先人たちのチャレンジ精神が、時代の経過とともに若い世代の社員には見えづらくなってきたという課題意識があります。例えばホテルやリゾートの事業などは過去を知らない人たちからはかけ離れたものに見えます。しかし船舶を作り出してきた常石にとって、欧州など遠路から訪れた船主や取引先のための宿泊施設を整えておくことは、必然のサービスでした。

地域の産業や会社の歴史を紐解けば、そこには新たな事業にも一貫した方向性が見えてきます。イノベーターズ100に参加していただいている皆さんにも「自社の強みを捉え直す」ということを何度もお願いしていますが、専務のお話からも改めて会社の中でのストーリーテリングの重要性を感じます。 最後に印象深いのがお二人の「信じられないくらい豊か」という瀬戸内への認識です。備後食や自然という資源を、経営者ではなく一個人として礼賛するお二人の言葉は、一読に値します。会社のみならず、その会社を支える地域の資源もまた、改めて捉え直すことができるか否かもまた、新たな価値創造の重要なポイントとなってきそうです。

 

聞き手:  市川 文子(株式会社リ・パブリック)
記事・構成:築島 渉