Innovators Hundred Hiroshima イノベーターズ100広島

Interview
先人たちへのインタビュー

イノベーターズ100対談 「湯﨑知事 × アスカネット福田社長」

イノベーターズ100は、広島県が掲げる「イノベーション立県」の実現に向け、株式会社リ・パブリックと共同で昨年10月より始まった人材育成プログラム。イノベーションの中心に「人」に置き、広島からイノベーターを発掘し次世代のイノベーションを担う人材を育成する。

「Words of Innovators ~先人からの道標~」第1回は、湯﨑英彦知事と、数々のイノベーションを起こし、現在本プログラムでも参加者の育成にご尽力いただいている株式会社アスカネット福田幸雄社長に、ご自身とイノベーションの関わり、広島県とイノベーションについて語っていただいた。 聞き手は、イノベーターズ100のディレクター市川文子。

 

「いたって普通の子供でした(笑)」
「新しいことをやるのが当たり前と考えている子供だった」

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ーー広島を代表するイノベーターのお二人ですが、子供時代から、その片鱗がありましたか?

 

湯﨑知事 
片鱗は全くなくて、いたって普通の子供でした(笑)。僕は自分がイノベーターを広めるアントレプレナーではあるけれど、イノベーターではないと今でも思っています。

 

福田社長
もともと商売をやっている家に生まれ、何を新しいことをやろうか、と食卓で話題が出るような新し物好きの家庭に育ったので、新しいことをやるのが当たり前と考えている子供でした。先祖代々新しいことにチャレンジして失敗するのを目の当たりに見て育ったんです。
コンピューター少年ならぬラジオ少年だったので、中学生の頃には当時のテレビのチューナーを直して回ってお金を儲けたこともあります。人がやらないようなことをやってお金になった、という体験は、すでに子供時代からですね。

 

ーーお二人とも、一度はあとにした広島に戻ってくることにした理由は何だったのでしょう。

 

湯﨑知事
僕の場合、(入省したり起業したりと)いろいろな人生の転機があり海外や東京にいた時代も長いんです。その中で、東京ではものすごいスピードで発展や変化があるのに時々帰ってくる広島はほとんど変化していない、というのを目の当たりにした。もう少し変化があっていいのではないか、このままでは取り残されてしまうのではないかという危機感が芽生えて、それに対してどう関わることができるのかという気持ちで知事選に出ました。

 

福田社長
東京でいろいろやってきましたけれども、生まれは広島ですし、帰って何かできないかなとは少しずつ思っていたんです。もともと何かをやりたいタイプですから、家業の手伝いをしながら何をやろうかと模索して、もう一回広島でスタートを切ったのが始まりです。

 

「アスカネットをつぶすのはどうしたらいいか社員に考えてもらう」

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ーーイノベーションを推進する、変化へのモチベーションはどこから来ていますか。

 

福田社長
子供の頃から新しいことをやって人が驚いてくれるのが好きでした。今でも子供のときと同じ心境です(笑)。でももちろん、驚かれることで利益をあげ雇用を生み、ビジネスが成立する、という最終形がある。そこを目指して何ができるのかをチャレンジしていくのは、すごく楽しいことですね。 イノベーションには、崩すという意味もありますから、社員には「今のアスカネットをつぶすには何をすればいいか考えたら新しいことが生まれるぞ」と言うこともあります。そんなだから、私の思考方法が従業員にうつっているかもしれない。

 

湯﨑知事
知事という立場で言えば、県が策定している「ひろしま未来チャレンジビジョン」の目指す姿「仕事でチャレンジ くらしでエンジョイ 活気溢れる広島県 〜仕事も暮らしも、欲張りなライフスタイルの実現」を実現するためには、イノベーションが必要なんです。激しい変化の中で世界と競争していかねばならない状況で、従来通りのやり方では負けてしまうし、人口減少の問題もある。新しい価値を持って推進することが、社会でも経済でも求められていると思いますね。

 

「イノベーションが生まれる広い裾野作りが大切」

 

ーー知事は書籍の中で起業家に必要なのは「起業意欲」ではなく「事業意欲」と仰っておいででした。イノベーターが活躍しやすい場所として広島県の目指す姿はどうでしょうか。

 

湯﨑知事
変化を生み、推奨する企業は、コンスタントにふつふつと生まれ続けなくてはいけない。ある人が素晴らしいことをやっても、それが単品で終わってはインパクトも意味もない。大切なのは継続的に続いていくことで、そのためにはイノベーションを生む土壌が必要です。 イノベーターが孤立しては次のイノベーションは生まれません。 例えば日本のサッカーが強いのは、裾野が広いから。優れた人が数人いるからではなくて、裾野が広いからおのずと頂点が高くなる。その裾野作り、土壌作りが知事として大切だと思いますね。

 

ーー福田社長は、若い人たちに新しい環境を作ってあげたいという思いはありますか。

 

福田社長
それはもう、若い人を支援したい気持ちはありますね。イノベーターズ100にはボード・オブ・イノベーターズ※1の一人として参加させてもらっていますが、若い皆さんの意欲は素晴らしい。従来の異業種交流会であればついつい名刺交換会で終わってしまいますが、いろいろな会社から若い方達が集まって、「自分たちが一緒になったら何ができるのか」と本気でチャレンジする場面を私は初めて目にしました。非常に優秀な方たちなので、本当にどんどんイノベーションが生まれてくるかもしれない。

 

「伸びる人がいたら、下から空に投げてやるような環境が必要」
「うまくいったことを宣伝して、広島のビジネス界に刺激を与えてほしい」

ーーイノベーターズ100には、自分が勤務しているのではない、他の会社のトップから直接教えをいただけるという「斜めの関係」があります。

 

湯﨑知事
斜めの関係は大切です。その反対に、もしも「樽蛇」と言われるような、伸びる人の足を引っ張るようなことがあれば変わっていかなければいけない。蛇が樽から出ようとしていたら、下から皆で空に向かって投げてやるくらいでいい。一般の人を含め、誰もが若い人や突飛なことをやる人を祝福できるようにならなくてはいけません。残念ながら日本ではその点が弱いのですが、東京では成功したベンチャーが若いベンチャーを助けるなど、変わってきているようです。日本全体がそうなって欲しいと思いますね。

 

福田社長
広島は刺激が足りない、というのがあると思うんです。新しいことをやっている人はいるけれど、それをもっと一般の人たちが知って、「すごいな、ああいう風に自分もなるにはどうしたらいいだろう?」と思うようになると、裾野が広がっていきますよね。日本人の謙虚な性格もあるかもしれませんが、うまくいった人がうまくいったことを広報していないのは、問題だと思います。 「俺はこんな風にしてうまくいったんだ」と言ってもらい、あいつにできるなら俺にもできるかもしれない、と思ってもらえるような、刺激あるビジネス界を広島に作ってもいいかなとも思いますね。

 

湯﨑知事
その通りですね。宣伝すると足を引っ張られるからあまり言わないのかもしれませんが(笑)。おれはこうしてうまくいったというのを宣伝して、刺激をし合って欲しいですね。

 

「うまくいかないと、それこそが生きているという場面だと感じる」

 

ーーお二人には、失敗を包み隠さず語る、という共通点があります。成功した影には苦労があるという話を聞くと、妬みはなくなると思うのですが。

 

福田社長
私はもう、失敗だらけで(笑)! 私でもできたということを宣伝したいね。

 

湯﨑知事
福田社長は、楽観的ですよね(笑)。

 

福田社長
そうそう 基本的にね。

 

湯﨑知事
僕も楽観的ですよ。アメリカのNVCA(National Venture Capital Association)で研修をやったときに言われたのは、ベンチャーをやる人にとって重要な要素の一つが「オプティミスティック(楽観的)」で、「ヘルシーパラノイア」であることだと。ただ楽観的でなんとかなるさ、だけでなく、かといって病的に心配しすぎるのでもなく、ヘルシーにいろいろなことが気になる、こだわりがある人のことです。心配したり気がついたら放っておけない、ということがありながらも最後はなんとかなるよ、と思える事は大切だと教えられましたね。福田さんはその通りの方だな、と思っています。

 

福田社長
私は楽観的だし、うまくいかないことを楽しめるタイプですね。それこそが生きている!やっている!と感じられる場面なんです。

 

「イノベーターとアントレプレナーが手を結べば、両方を兼ねる必要はない」
「なんでも自分でやるような、オールマイティーである必要はない」

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湯﨑知事
福田さんなんかは稀有で、イノベーターとアントレプレナー両方ができる人ですよね。これはイチローになりなさいというのが無理な話なのと同じで、特別です(笑)。 人のアイデアを取り込んで宣伝するアントレプレナー、そして研究者など技術的なイノベーションをするのがイノベーター。必ずしも両方である必要はないんです。研究ができるけど経営はできないという人は多いわけで、イノベーションを思い描くのが得意だけど実行が得意でないならアントレプレナーとくっついてやっていけばいいわけだし、発想が貧困だなと思うアントレプレナーは、イノベーターを捕まえたらいい。片方だけでは成立しないけれど、セットになると急に輪が広がりますね。

 

福田社長
その通りですね。イノベーターズ100の参加者の社員さんたちにも、アイデアだけでビジネスになるのか、という考え方の人や、言われたことはきちんとするけどそれ以上のことは、という人、様々なタイプの人がいて、そういう人たちをコーディネートしてあなたはこれ、あなたはこれ、と編集するリーダーがいたら、それぞれの特性が活かされますね。

 

湯﨑知事
アメリカは、それをベンチャーキャピタリスト(VC)がやるからうまくいっているんですね。グーグルなんかは良い例ですが、面白いものを見つけ、そこに経営できる人を入れて会社として育てている。日本はまだそこが弱くて、さらに広島ではそれができるVC自体が少ないのですが、まずは個々人がなんでも自前でやらなくてはいけない、という考え方を辞める必要がありますね。

 

福田社長
これまでなんでも社長がやるという風潮があったけれど、これからはそんなオールマイティーでなくてもいいんですよね。

 

湯﨑知事 そう、福田さんくらいです(笑)。

 

「自分の限界はここではない、と自分にチャレンジをしていけば人は伸びる」

 

ーー未来の広島のイノベーターたちに、アドバイスをお願いできますか。

 

福田社長
「自分の限界はここではない」と思って欲しいですよね。「私はこんなもんだ」と思うと楽だけれど、「自分はこんなもんじゃない。何してるんだ!」と自分にチャレンジをしていけば、人はもっともっと、伸びるもの。究極、人に何を言われようと、ですね。

 

湯﨑知事
まずはやりたいこと・実現したいことを持ってもらいたいですね。やろうと思ったらきっと実現できると思うんです。自分にはもう無理だ、と思わなければ必ず実現できます。

 

 

取材日:  2015年12月21日
聞き手:  市川 文子(株式会社リ・パブリック)
写真:   中山 慎介
動画:   織田 泰正
記事・構成:築島 渉